昨日の夕方だったかな、
「ちょっと、指が被れたみたいだから外していい?」
と妻が俺に断りを入れる。
妻が外したリングは結婚指輪よりもちょっとだけ長い時間、妻の指に光っている。
まだ恋人時代に俺がプレゼントしたものだ。
プラチナの表面は擦れ光沢もなくなってしまった古いリング。
妻は金属アレルギーがあって、ゴールドやシルバーの貴金属を付けると、肌荒れしてしまう。
そんなことから、妻へのプレゼントは全てプラチナ。
高くつく女性だ。
それでも、長くつけているとかぶれてしまうことがあるから、
結婚指輪やこのリングもそうなんだけど、
ときどき外して指の手入れをする。
そんな時は必ず、
「外してもいい?」
そう俺に伺いを立ててくるから不思議だ。
テーブルに置かれたリング。
擦れたその表面には、
「Same Dream」―同じ夢を―
そんなメッセージの刻印。
当時彼女だった妻に、その文字を刻んで贈った。
果たして、
俺は妻と同じ夢を見ているのだろうか?
妻は俺と同じ夢を見てくれているのだろうか?
擦れた文字のように、
あの時一緒に夢見たものも擦れてしまっていないだろうか?
擦れた、リングの刻印を眺めながら、
ちょっとセンチメンタルな気持ちになる俺だった。
リングを眺めている俺に、
「大丈夫よ」
「指の手入れが終わったら」
「ちゃんとつけますから」
妻はにっこり微笑んでそう囁いた。
そんな誤解を招くようなことがないように、気配りを欠かさない妻なんだけど、
でも、
でも、
でもね、
未だにセックスレス。
なぜ?
なぜなんだー?
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